暑熱馴化(しょねつじゅんか)、または暑熱順化と言う言葉。
皆様、ご存じだろうか。
暑さや熱に体を順応させることだ。
ランニングにおいても、気温が上がるとパフォーマンスが下がり、マラソンのタイムが遅くなる。
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また、気温が上がると、発汗量が増え、多くの水分を必要とする。
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暑くなってきたこの季節、暑熱馴化をすることで、ランニングのパフォーマンスの低下を最小限にとどめられると言う。
おそらく多くの方が気になっているであろう、この「暑熱馴化」について、
・具体的にどのような効果があるのか
・どのような手法で順応させられるのか
を論文調査してみたので、まとめてみたいと思う。
■暑熱馴化とその効果の概要
暑熱馴化の概要については、こちらの論文を引用している記事を読んでいただくと良い。
"暑熱環境における競技パフォーマンスの最適化"
暑熱馴化には、個人差はあるが、10~14日間程度必要である。
この記事の中で記載されている暑熱馴化の効果としては、以下が挙げられている。
・血漿量の増大
暑熱馴化の初期に、3~27%の組織間液と血漿量の増加が確認される。
これにより、心拍1回の拍出量が増え、同じ運動強度で心拍数が上がりにくくなる。
また、血漿量が増えることに伴い、皮膚への血流も増え、放熱量が増え、深部体温を低く保てる。
・発汗率、発汗感受性の向上
血管反応と汗腺順応により、発汗率と発汗感受性が高まる。
運動中に、より早く、またより多く発汗できるようになる。
さらに、順応により発汗によるナトリウムの減少を最小限に抑えられるようになる。
・乳酸性閾値の向上
血漿量の増加と、心室コンプライアンス(心筋のバネ係数のようなものか)の上昇にともない、血液が全身に流れやすくなり、持久的な運動の際の、脂肪利用効率が高まり、乳酸性閾値が向上する。
これらの効果は、暑熱環境での運動刺激が維持されない場合は、6日程度で減少し始める。
暑熱馴化の効果が無くなった場合、再び馴化するためには、10~14日間の馴化期間が必要となる。
■暑熱馴化のためのプログラムとパフォーマンスの向上
では、暑熱馴化を行うためには、具体的にどのような運動を行えば良いのか。
また、定量的なパフォーマンス向上の効果はどの程度なのか。
この疑問に対しては、以下の論文が回答してくれる。
"Heat acclimation improves exercise performance"
この論文では、「暑熱馴化組」と「普通の運動組」との2つの組に分けて、馴化プログラムを実施し、パフォーマンスの測定を行っている。
暑熱馴化組の馴化プログラムは、
気温40度、湿度30%の中で、
50%VO2maxの強度の運動を45分×2セット(休憩10分)
普通の運動組の馴化プログラムは、
気温13度、湿度30%の中で、
上記と同じ50%VO2maxの強度の運動を45分×2セット(休憩10分)
の運動をそれぞれ、10日間継続した。
馴化プログラムの前後で、測定した
VO2max
タイムトライアルの結果
乳酸閾値
が、Fig.2に。
心室の出力
拍出量
運動中の心拍数
がFig.3に、記されている。
暑熱馴化組は、すべての測定結果で、パフォーマンスの向上が見られている。
中でも最も分かりやすい向上は、VO2maxだと思うので、グラフを掲載したい。
※上記論文のFig.2より引用
普通の運動組(Control group)は、Hotな環境(38度)でのVO2maxの向上はほぼ見られていない。
一方、暑熱馴化組(Experimental group)は、Hotな環境で実に「5」程度のVO2maxの向上が見られている。
左から3番目の黒棒グラフが、暑熱馴化前。
左から4番目の白抜きグラフが、暑熱馴化後だ。
また、暑熱順化組は、Coolな環境(13度)でのパフォーマンスも軒並み向上している。
上記の論文、Fig.2とFig.3の結果だけでも確認すると、暑熱馴化をしたくてたまらなくなると思う。
■まとめ
暑い環境の中、10日間ほど運動を継続すると起きる、暑さと熱に対する順応、「暑熱馴化」。
論文によると、その効果は絶大だ。
気温40度、湿度30%の中で、
50%VO2maxの強度の運動を45分×2セット(休憩10分)
を10日間。
この運動を継続することは、少々難しいだろう。
だが、論文の結果は、涼しいところで練習するよりも暑いところで練習する方が、効果が高い、とも読める。
これから更に暑い時期に入るが、実はランニングのパフォーマンスを向上させるには、もってこいの時期なのだ。
10日間、日中の暑い時間帯に走ることは難しくとも、走れる日は、日中の暑い時間帯を選び走るだけでも、効果はあると考えられる。
と、自分にも言い聞かせて、ドリンクや日焼け止めなど万全の準備をして、ギラギラの太陽の下を走ろうと思う。
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