自分が勤務する会社の在宅勤務が決まった2月21日(金)。
以降、友達を始め、自分の仲の良い人とは全く会えなかった。
楓子が入院した3月9日の時点では、1週間弱で退院すると思っていた。
だから、3月19日に地元で行われる予定だった、ぬまっちさんの送別会にも参加しようと思っていた。
でも、無理だった。
楓子の容体は、悪い。
小脳の炎症により、筋肉を動かすことがままならない。
立ったり座ったりすることはもちろん、腕や足を動かすことができない状態。
言葉を発することもできない。
感情を表現するための、顔の表情を作る筋肉も動かない。
かろうじて、頷いたり、寝返りをうったりできるくらいの状態で、調子が悪くなると、目もうつろになり、全くこちらの言葉に反応しなくなる。
最悪のことも頭をよぎった。
あれだけ元気だった楓子が、面倒くさいくらい元気だった楓子が、原因不明の病理によりここまでの状態になるなんて、全く想像ができなかった。
あまりにも突然襲ってきた、一家の一大事に、普通の精神状態で過ごせるわけがなかった。
これほどまでに辛いことって、他にあるのだろうか。
*****
地元で開催される、ぬまっちさんの送別会には、絶対に参加しようと思っていた。
ぬまっちさんとは、何度も一緒に走ったし、飲んだし、何度、その変わらない酒好きなテンションに助けていただいたことか。
だから、送別会に行って、トイレットペーパーを渡すネタを仕込んでいたんだ。
でも、楓子との面会時間が終わって、家に帰ってきて、憔悴しきっている奥さんを前に、一度座った腰を上げることができなくなってしまった。
「普通で、健康でいること。」
その誰もが当たり前のことができていない自分が、信じられないし、そして当たり前のことをできてる人たちが、眩しすぎて直視できない。
*****
翌日。
3月20日(金)の祝日。
9時半ころ、ぬまっちさんにLINEを送った。
「10時過ぎに、〇〇あたりで会えませんか?」と。
前日、ベロンベロンになるまで飲んでいたはずのぬまっちさんから、
「これから走ろうと思っていたところなので、行きますね」と。
仕込んでいたネタを持って、走った。
何週間ぶりに、走った。
2kmくらいだけど。
走りながら泣いた。
待ち合わせ場所で、待っていると、遠くから走ってくるぬまっちさんを発見。
ネタの品をお渡しして、しばし話をする。
実に、2月21日以来、約1か月ぶりの友人と言える人との再会。
その間に起きた、壮絶な出来事を思い出しながら、友人の顔を見たら、
「あぁ、これは、現実なんだな」
って思って、涙腺が緩んでしまった。
そんな自分に対して、いつもの感じで接してくれて、ありがとうね。
ぬまっちさん。
また、一緒に楽しく走ったり飲んだりしようね。
心が、、今まですごく重くて、どうしようもなかった心が、すこし楽になった気がしたよ。
*****
3月13日から16日にかけて、楓子は、生死を彷徨っていた。
本当にキツくて、辛かったと思う。
何を言っても、何をやっても無表情で、無反応。
顔は赤く、まぶたの動きだけで、かろうじて反応を示してくれていた。
でも、そんな状態だった楓子が、3月20日、感情を思いっきり表現してくれたんだ。
奥さんを抱きしめる動きをできて。
そのことが嬉しくて楓子を見た奥さんを前に、楓子は顔をしわくちゃにして、涙を流してくれた。
やっと、やっと。
前までの楓子に会えた気がしたよ。
やっと、やっと、再会できた気がしたよ。
ここからだ。
やっと、希望が。
ささやかな希望が持てた気がする。
ときおり、笑顔を魅せられるまでに回復できた楓子。
ありがとう。
さぁ、ここから、みんなで一緒に進んでいこうね。
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