3人娘の親父が走る。いつだって全力中年。

3人娘の親父がランニングを中心に、日々の出来事をそこはかとなく綴ります。

次女からの最高のプレゼント。42歳の誕生日。

3月22日。

俺の誕生日だ。


でも、そんなこと、どうでも良かった。

ていうか、忘れてた。



3月21日。

病院で、奥さんが楓子に話しかけていた。


「今日は、3月21日だよ。明日は何の日だか、知ってる?」


楓子は、縦に首を振った。

言葉にならない言葉で、

「パパのたんじょうび。」

と言ってくれた。



俺も忘れていたのに。


そんな、すごいことってあるんだな。


楓子、良く覚えていてくれたね。



*****



「小脳」

小脳は、運動を上手にこなすために大きな役割を担っている。

ヒトが無意識に行える様々な運動のプログラムを保存し、実行する。


お箸を持って、ご飯を口に運ぶ動作。

スマホで文字を打つと言う動作。

「おはよう」と発声するための動作。

泣いたり、笑ったりする顔の表情を作ること。

何かを目で追うこと。

もちろん、普通に立って、歩くことも。


そんなあたり前に、自然に、滑らかに動く、すべての動作は、小脳がないとできない。


運動の制御以外にも、小脳は、


短期的な記憶。

高度な認知能力。

計画の立案。

情動の制御。

など、かなり高度な情報処理を行っているという、近年の研究結果もある。


10歳の小さな体の楓子は、入院して以降、文献で調べた小脳の持つ機能をどんどん失っているように見えた。

最悪の場合、小脳が腫れることで、脳幹が圧迫されて、すべてを失う可能性があると文献に書いてあった。



全く受け入れられなかったが、最悪の事態もありえるかもしれないと頭をよぎっては、

「それだけは、絶対にない。」

と、そんなことを少しでも考えた自分を戒めた。



*****



楓子は、自分の身に起きていることが分からないまま、どんどん容体が悪化していっていたが、自分の容体が悪いことも理解できていなかったのかもしれない。


脳の炎症は、本当に恐ろしい。


自分が自分で無くなってしまう可能性がある。


でも、そんな普通では想像もつかないような状態から、楓子は、少しずつ少しずつ回復してきてくれた。



涙を流してくれた。

不自然で、ワンパターンだけど、笑顔を取り戻した。

手を動かしてくれた。

「うん」としゃべってくれた。

自分の名前を言えるようになってくれた。



そして、俺の永遠のライバルでもあり、親友でもあるトマスさんがお見舞いで持ってきてくれた花束を持って、会心の笑顔をみせてくれた。
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トマスさん、ありがとうね。



*****



3月23日。

仕事をお休みさせていただき、楓子の面会に向かった。


楓子は、病室にいなかった。


「あれ?検査にでも行ったのだろうか。」


そう思ってあたりを探すと、楓子は車いすに乗って、プレイルームのテーブルの前にいて、これから看護師さんにご飯を食べさせてもらうところだった。



楓子、車いすに乗れたんだ。



1週間前、最悪のことも頭をよぎった。

そこから、車いすに乗れるまでに回復したんだ。



月並みな言葉だけど、

本当に嬉しかった。



*****



その後、病室に戻って、奥さんと楓子と3人でゆっくりしていた。


何日か前の楓子の様子を撮ったビデオを楓子に見てもらった。


楓子は笑いながら見ていた。


どうやら、たどたどしく話す様子や、手の動きがおかしな感じになっている自分が面白いようだ。


小脳炎の診断を下されて以降、見せたことのないような笑顔を、声を出しながら見せてくれた。


そして、その後、号泣した。
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こんな楓子の号泣を見たことはなかった。


「ママに会いたかったんだよ。本当にママに会いたかったんだよ。」


そう言いながら号泣していた。



やっと理解できたんだ。


病気になってから、自分の身に何が起こっていたのかを。


そして、やっと思い出したんだ。


病気になって、一人で病院にいる時間が、どれだけ不安だったのかを。


奥さんは、そんな楓子を強く抱きしめて、

俺は、パイプ椅子の上で一人涙をぬぐっていた。



「楓子は、やっと、やっと。治ってきたんだ。」



1日遅くなったけど、楓子からの最高のプレゼント。


「病気から回復してきたという事実」


これまでの自分の人生で、一番のプレゼントになったよ。


これほどまでに、幸せを感じられることって、あるんだな。



楓子、ありがとう。


神様、ありがとう。


ここからは、良くなる一方だよね。



42歳。

また一つ、歳を重ねられたことに。

これまで、生きてこられたことに、感謝。



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