夜10時半過ぎ。
いつも通り軽く酔っぱらっている俺は、寝室のベッドに横になった。
うちは、真夏でも夜眠るときに冷房を付けることは、ほとんどない。
代わりに、風通しを良くするために、部屋のドアは開け放っており、窓も開けている。
ベッドに横になり、うとうとし始めた頃、娘たちの寝室が騒がしくなった。
3人で、何だかコソコソ話をしているようだ。
ドアを開け放っているので、嫌でもその声が聞こえてくる。
どうやら、長女に、同じ高校の男子からLINEが来たようだ。
別に聞き耳を立てようとしていた訳ではないが、
ドアを開け放っているので、嫌でもその声が聞こえてくる。
長女が男子からデートのお誘い的なLINEもらったようで、それに対して、どう返答するかを3人で話合っているようだ。
長女は、人並みに「JK」を謳歌している、と言うことだろう。
いや。
聞き耳を立ているわけではない。
ドアを開け放っているので、、、、、
そこに奥さんがリビングから2階に上がってきて、娘たちの寝室に向かった。
「ちょっといつまで騒いでいるつもり?ちゃんと寝なさい!」
と。
すると、
「いやいや。桜子の一大事なんだよ!」
と、楓子。
そこからしばらく全力家の女子談議が始まった。
~~~~~
翌朝。
桜子が起きてくると、奥さんが桜子に、
「〇〇君からのLINE、その後、返信あった?」
と聞いている。
ここの会話は、ちゃんと聞き耳を立てた。
そして、タイミングを計って、俺もその会話に割って入った。
「いやな、それは違う。高校生の男子は、純朴極まりないから、それは『脈あり』と思っていると思うぞ。」
と。
「パパ、なんで知ってるの!?」
と桜子は、驚いた様子だった。
が、内緒にしたいなら、あんなに大きな声で話するんじゃないよ。
と思った。
~~~~~
その男子は、桜子と同じバドミントン部の男子。
その男子から、以下のような内容LINEをもらったとのことだ。
この夏休みに、美味しいスイーツを食べに行こうと思っている。
自分は、無類のスイーツ好きだ。
ただ、スイーツを食べに男一人で行くのも、周りから見ると、変な目で見られてしまいそうだ。
だから、女子と一緒に美味しいスイーツのお店に行きたい。
桜子、スイーツを一緒に食べに行かないか?
と。
桜子には、実は、既に彼氏がいる。
よって、このバドミントン男子には、全く興味がないらしい。
でも同じ部活の男子なので、「良い感じ」の落としどころを見つけたい。
ということで、昨晩、全力家女子談議が、長々と開催されたという訳だ。
その談議の中で、どんな議題があったのか、そこにどんな結論がついたのかを示す。
【議題①】
このバドミントン男子は、桜子のことが好きなのかどうか。
→ある程度、好き。興味がないなら、こんなLINEを送ってこない。
【議題②】
このバドミントン男子は、本当にスイーツが好きなのか。
→かなり好きだろう。スイーツをネタにデートに誘うという戦略を、なかなか思いつかないはず。
【議題③】
体よくお断りしつつも、関係を壊さない、絶妙の返しはどんなものか。
→単純に断っては、関係を壊してしまう。
「あんまり行きたくないなぁ」とかは、もってのほか。
「バドミントン部の皆で一緒に行こう!スイーツ食べ放題とかが良いんじゃない?」
がベスト。
そりゃ、まぁ、夜中10時半であろうが、盛り上がるわな。
~~~~~
そして翌朝、
「バドミントン部の皆で一緒に行こう!スイーツ食べ放題とかが良いんじゃない?」
の桜子の返信に対して、バドミントン男子からの返答があった。
俺の行こうと思っていた店、食べ放題がないんだよね。
お店AのURL
:桃のタルトの上にバニラアイスが乗ったスイーツの写真お店BのURL
:プリンの上に丸ごと1個の桃が乗ったスイーツの写真どうしよっか?
と。
どちらの桃スイーツも、相当にインパクトがあり、「バエる」写真だし、めちゃ美味しそうだ。
しかしだ。
この返信が致命傷だった。
もしかしたら、ワンチャン、桜子と一緒にスイーツを食べに行けたかもしれない。
ほかのバドミントン部の連中も一緒だったかもしれないが。
だが、ここでバドミントン男子は、致命的なミスを犯したのだ。
もしかしたら、バドミントン部のみんなでスイーツパーティができて、
もしかしたら、そこで桜子の気を惹くことができて、
あるいは、その次があったならば、次の展開があったのかもしれない。
だがしかし。
彼は、致命的なミスを犯してしまったのだ。
「桜子は、桃が嫌い。」
という事実を知らなかったのだ。
桜子は、
「えぇーー。桃じゃん。私、行きたくないなぁ。」
と言っていた。
そして、
LINEには、
「なるほど。」
と返信していた。
~~~~~
仕事でもそうだ。
お客様に買っていただくためには、まず第一にお客様を知り、自分を知ってもらい、そこで信頼関係を構築することが大事だ。
普段の人間関係も一緒だ。
事前のリサーチが重要。
これに尽きる。
今回の一件で、俺も改めて勉強をさせてもらった。
ありがとう、バドミントン男子。
さてと。
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