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W杯第3戦で見せた西野朗監督の「究極の決断」

2018 FIFAワールドカップロシア、グループステージ第3戦。

日本対ポーランドの一戦。

後半14分にポーランドに先制を許し、「0-1」になった。

その後、後半30分を過ぎたあたりで、別会場のコロンビア対セネガル戦の情報が入ってきた。

コロンビアが「1-0」でリード。


それぞれの試合がこのまま終了すれば、日本はグループ2位でワールドカップ決勝トーナメントに進めることになるという状況だった。


ここで日本代表西野朗監督が下した決断は、「この状況の維持」だった。

後半37分に武藤と交代し長谷部がピッチに入る。

その後は、ディフェンスラインでパス回しを行い、ただただ時間が過ぎるのを待つサッカーが繰り広げられた。

観客からはブーイングの嵐。

それでもピッチでは、パス回しが続けられた。

そして、試合終了。

日本は「0-1」でポーランドに負けた。

コロンビア対セネガル戦も、「1-0」のまま終了。

これにより、日本はグループ2位で決勝トーナメントに進むことが決定した。


試合を見ながら思ったこと

テレビで試合を観戦していた俺は、日本が1点取られた後、

「何としてでも引き分けに持ち込まないと」
「なんで攻撃的なメンバー交代をしないんだ?」

と焦っていた。


コロンビアが1点リードし、このまま行けば日本が決勝トーナメントに行ける、という状況になったときは、

「パス回しで時間つぶしなんて、つまらんサッカー見るために夜更かししてるわけじゃないぞ」
「何としてでも点を取りに行くサッカーをしろよ」
「セネガルが追い付いたらどーするつもりなんだよ」

なんて気持ちで、イライラしていた。


試合が終了し、日本が決勝トーナメント進出が決まった後も、素直に喜べない自分がいた。


西野朗監督の究極の決断

日本が1点先制され、コロンビアがセネガルに「1-0」で勝っていることが分かった、後半30分の時点。

セネガルも引き分け以上に持ち込まなければならない状況であり、コロンビア対セネガル戦が「1-1」のドローで終わる可能性も大いにあった。

もしコロンビア対セネガルが「1-1」のドローだった場合は、日本は、グループリーグ敗退するという状況だった。

だが、西野朗監督の選択は「現在の状況維持と、コロンビア頼み」だった。


ディフェンスラインでボールを回す、点を取りに行くことを完全に諦めた時間つぶしのサッカー。


この選択をする際に、頭をよぎるであろうことは、

・セネガルがコロンビアに追いついてしまう可能性があること
 その場合は、日本はグループリーグ敗退が決まる

・ボールを回すサッカーをやっても、ポーランドが強気に点を更に取りに来る可能性があること

・時間つぶしのサッカーをやることにより、観客やメディアやサポーターからバッシングされる可能性があること

だったと思う。


これらのリスクをすべて排除し、最後の選手交代のカードを切り(武藤→長谷部)、パス回しの戦略を実行する。


最悪のシナリオは、パス回しをして時間を潰して日本対ポーランド戦は「0-1」で終わるも、セネガルが追いつきコロンビア対セネガル戦が「1-1」で終わり、日本のグループリーグ敗退が決定するというものだ。

この言わばチキンとも取れる戦略をとった上で、グループリーグ敗退という最悪の結果もありえた、あの状況の中、西野朗監督は、「不本意な選択だった」と自らを振り返る、パス回しの戦略をとったのだ。


西野朗監督は、この決断に至るまでの過程を、試合後のインタビューで語っている。

ただ、選手たちのバランスが非常に「これでいいのであれば、この状態」を選択している意識と、そうでなくても重心が後ろに(下がってしまう)というような(印象があった)。

この選択は(当初は)まったくなかったものです。ただそういう状況だったので、自分の中になかったプランの選択をした。自分が選んだのは他力だった。自分の信条では納得できなかったですが、選手に遂行させました。

ピッチにいる選手たちの状況をしっかり見極めた上で、どの可能性が最も高いかを分析し、当初想定していなかった選択肢を作り出し、納得はできないが、その選択肢を選んだのだ。


自分の気持ちを完全に押し殺し、広い視野で客観的な分析を行った上での客観的な決断。

失敗した場合のバッシングは計り知れないであろう、究極の決断。


この決断に至るまでの西野朗監督の心理が、如実なまでに伝わってくる試合後のインタビューは、こちらの記事を参照されたい。
russia2018.yahoo.co.jp


西野朗監督とマイアミの奇跡

西野朗監督と言えば、1996年のアトランタオリンピックで、日本五輪代表メンバーの監督として、ブラジルに「1-0」で勝利した「マイアミの奇跡」なしでは語れない。

アトランタオリンピックでは、日本がブラジルに勝利した「マイアミの奇跡」も話題にはなったが、初戦のブラジル戦に勝利した後、次戦のナイジェリア戦は、中田英寿選手と西野朗監督とのやり取りが話題になり「0-2」で敗退。

3戦目のハンガリー戦で日本は「3-2」で勝利し、2勝1敗となるものの、得失点差でグループ3位となり、決勝トーナメントに進めず、「グループリーグで2勝を挙げながら敗退」という名誉の敗退を喫した。

当時、日本が世界戦でこれだけの結果を残せたことだけでも奇跡なのだが、当時のメディアや日本サッカー協会は、西野朗監督の守備的なサッカーを強烈に批判した。


強豪から2勝をあげたにも関わらず、決勝トーナメントに進めなかった経験が、今回の「結果を得るための究極の決断」に繋がったのかもしれない。


その後、西野朗監督はこの経験を活かし、「攻撃的なサッカー」を行うために必要なチームを目指して、Jリーグの監督をつとめる。

そして、Jリーグ史上最高の勝利数270勝という勝ち星を積み上げるのだ。


今回のワールドカップ、最新のFIFAランキング(2018年6月7日発表)を確認すると、

日本:61位
ポーランド:8位
コロンビア:16位
セネガル:27位

と、相手国はすべて日本よりも圧倒的に格上だ。

しかも、ハリルホジッチ監督との監督交代が、ワールドカップの2か月前に行われ、スタッフや選手との信頼関係を作る時間も短い中で、突入したワールドカップ。


メディアやサポーターからの批判覚悟で、今回のポーランド戦での「パス回しの戦略」を選手たちに実行させ、結果として決勝トーナメント進出を勝ち取れた日本代表は、西野朗監督を中心として、最高に結束したチームになれたと思う。


結果が求められる究極の決断。究極の眼力を持つ男。西野朗。

パス回しの戦略ばかりが目立つが、実はポーランド戦では、それまでのコロンビア戦、セネガル戦とスターティングメンバーを6人も変えて、フォーメーションまで変えて臨んでいた。

サッカーは、90分間、ストップアンドゴーを10km近くも繰り返し、体と体の接触も多く、1試合こなすと体へのダメージも計り知れない。

6名も先発メンバーを入れ替えるということは、勝利を視野に入れていれば、なかなかできることではない。

もし敗退すれば、「なぜ6人も変えたんだ」と厳しい叱責を受けることになるだろう。


が、西野朗監督は、先発メンバーを6名変えたことに対して、

総合的な判断ですし、勝ち上がることを自分の中で前提と考えていました。

勝ち上がり、決勝トーナメントを戦うことを前提に、ポーランドとの厳しい戦いに臨んでいたのだ。


日本の美学には、神風特攻隊のような「散るのであれば、華々しく散れ」という考え方があると思う。

そんな美学を称える風潮が日本のメディアにはあると思う。

今回のポーランド戦、最後まで得点を取ることを諦めずに戦い、結果スキを突かれポーランドに2点目を献上し、グループリーグ敗退という「華々しく散る」結果もあり得たと思う。

が、華々しくはあっても、散ってしまったらそこで終わりなのだ。


様々なリスクを負い、結果だけを追い求めた西野朗監督の究極の選択は、賞賛に値すると考えている。

FIFAランキング1位、前回のワールドカップ優勝国のドイツが、グループリーグ敗退し、メッシ擁するアルゼンチンも苦戦するワールドカップという大舞台で、FIFAランキング61位の日本が、決勝トーナメントに進出できたのだから。


そんな西野朗監督の目には、幾度となく修羅場を潜り抜けてきた者のみが持つ、凄まじい眼力、そして覚悟が備わっていると思う。
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今回のポーランド戦は、決して「楽しい試合」ではなかった。

が、西野朗監督の何たるかを知ることにより、ただの「楽しい試合」以上に楽しめた試合だったと思う。

そして何よりも、日本がワールドカップの決勝トーナメントで戦える試合をまだ楽しめるのだし。


そんな西野朗監督が、なぜ今回のような厳しいワールドカップを戦えているのかが、十分すぎるほど理解できる本が、絶賛発売中で、現在あまりの人気から重版中とのことだ。


ちなみに俺は、これからKindleでしっかり読もうと思う。

思う存分ワールドカップを楽しむために。

※2018年6月30日追記
※「勝利のルーティーン 常勝軍団を作る、「習慣化」のチームマネジメント」読了。
※マイアミの奇跡を始め、Jリーグの監督時代の西野朗監督の思考が手に取るように分かる内容だった。
※次のベルギー戦、西野朗監督の采配からも目が離せないと強く感じることができた。
※ベルギー戦、真夜中だが、全力で応援するよ!


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