2020年4月3日の金曜日。
俺は、ビールを3リットル飲んだ。
桜子、璃子、そして楓子。
3人娘が楽しそうに遊ぶ声をBGMにしながら、ビールを飲んだ。
そして、これまで張りつめていた心が緩み、ソファの上で熟睡した。
*****
3月9日に次女の楓子が「髄膜炎」の疑いで入院してから、実に約1か月。
楓子の病気は、「自己免疫性急性小脳炎」。
一時は、「命が亡くなってしまうのではないか」という恐怖を感じるほど、大変な状況だった。
その状態が3日ほど続いた、あの日々。
気が狂ってしまうかもしれないほどのストレスを感じていた、あの日々。
みるみるうちに動けなくなり、話せなくなり、意識が遠のいていった、楓子。
話しかけても、赤い顔をして、まぶたの動きだけでかろうじて反応していた、楓子。
そこから徐々に徐々に回復して。
日々、着実に回復して。
この週末、楓子は、外泊許可が出て、家に帰って来れた。
*****
楓子が「小脳炎」だと分かってから、Webで情報を集めまくった。
ただ、なかなか欲しい情報にたどり着かなかった。
俺が欲しかった情報は、
「小脳炎になったけど、後遺症がなくしっかり回復している人」
の情報だった。
でも、全然ない。
亡くなった人、後遺症が残っている人、そんな人ばかり。
でも、
「この人の症状は、楓子の症状と違う」
「楓子は、この論文の人とは違う病気だ」
「楓子は、絶対にちゃんと治る」
そう信じながら、Webで調べ続けて、そして、楓子の症状を逐一記録していた。
いずれ何かの役にたつはずと、楓子の治療、症状、検査結果などの推移をまとめている。
楓子が退院して、しっかり落ち着いたら、きっちりまとめたいと思っている。
たぶん、同じ病気で苦しんでいる方の役に立てると思うから。
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頭痛とめまいが酷く、寝たきりの体で、毎日のように何かしらの検査を行い、少し回復して大部屋に移ってからは、他の患者の子どもがシクシク泣く声を聞きながら病院で、独り、不安な夜を過ごしていた楓子は、
27日ぶりに、自宅に帰ってきた。
楓子を玄関に一番に迎えに来た、四女の「ちょこ」との再会。
www.youtube.com
朝から、楓子の帰宅のために準備をしていた長女と三女との再会。
www.youtube.com
楓子、ここまで良く我慢したね。
帰ってきてくれて、ありがとう。
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家族5人+1匹で、一緒に過ごすこと。
そんなあたり前のことを失っていた、1か月間。
もう二度と戻ってこないかもしれないと思った、3週間前。
すべてが無くなる儚さを感じ、
儚さからくる愛しさを感じ、
少しずつ回復することに喜びを感じ。
失ってしまう怖さを知ったからこそ、感じられることがあるんだ。
そして、その怖さを二度と味わわないよう、何をしなければいけないか、やるべきことが見えてくるんだ。
儚いことを知っているからこその、愛しさ。
以前は「あたり前」と思っていた、そんな家族みんなでの時間。
その「あたり前」を目の当たりした俺は、3リットルのビールを飲みながら、3リットルの涙を流した。
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