中学1年生になり、クラスの友達と意気投合し、その年の学芸発表会で演奏をしようという話になった。
ちなみに俺は、楽器の習い事なんてしたことはなかった。
できるのは、カスタネットくらいだっただろう。
リーダー格の「ノムさん」が、
「トランペットをやってみよう」
と言い出し、トランペットがどんなものなのかも良く分からなかった俺は、戸惑った。
でも、楽器できるようになったら、女子にモテそうだな、なんて不純な想いもあり、この流れに乗ってみようと思った。
その日、自宅に戻って母に相談した。
「あなたが本当にやる気があるのなら、やってみなさい。」
うちは決してお金持ちではなく、むしろお金はなかったと思うが、
「自らやってみたい」
と両親に相談した、俺の人生初の大きな頼みごとを、両親は快諾してくれた。
「ノムさん」、「いのけん」、そして俺。
3人で、トランペット教室に通うことになった。
トランペットは、そもそも音を出すことが難しい。
マウスピースという部品に、唇を当てて、唇の硬さを変えることで大まかな音程を調整する。
この唇の硬さ(スティフネス)の調整が、トランペットのすべてだと言っても過言ではない。
*****
天空の城ラピュタで、パズーがトランペットを演奏するシーンがあるが、あの曲は、相当に音程が広い。
あれだけ透き通った高音をいとも簡単に出しているパズーは、相当なトランペット上級者だ。
そりゃ、シータも好きになっちゃうよ。
*****
俺は、トランペットの先生に、
「3人の中で一番、唇の硬さの調節が上手だよ」
と言われた。
そう。
俺とキスをしたことがある方ならご存知だとは思うが、
俺の唇は、すごく柔らかい。
そして硬くもなる。
なので、俺のキスは気持ちが良いはずだ。
スティフネスを低くして、相手の唇にタッチし、ところどころでスティフネスを上げて、インパクトを与える。
これが、俺の作戦だ。
*****
話はそれたが、その年の学芸発表会では、
トランペット、ピアノ、鉄琴と木琴、ドラム、縦笛などなど、いくつかの楽器で、
ドラゴンクエストのテーマ曲などドラクエの曲、トトロの曲など、演奏することになった。
学芸発表会の日。
普段、仕事が忙しい父も、俺の晴れの舞台を見に来るということで、俺は緊張していた。
俺の父は、いい意味でも悪い意味でも昔気質の、「The男論」が大好きだ。
「男なら、泣いたらダメだ。男が泣いて良いのは親が死んだときだけだ」
と、俺は泣くたびに、叱られていた。
そんな父は、俺の演奏を観ながら、ハンカチで顔を押さえていた。
母に聞くと、
「パパが、隣で泣いていたから、ビックリしちゃって、私も泣いちゃったよぉ~」
と。
父は、
「俺は、泣いてなかったよ。」
「でも、お前はよくやったよ。」
と。
父は涙を流していた。
俺のトランペットの演奏を見て、成長を感じて嬉しかったと。
普段仕事が忙しくて、子ども達のことは、母にまかせっきりで、全然子ども達の成長を感じる機会がなかったが、
学芸発表会で、俺が成長していることに心が震えたと、
後に語ってくれた。
*****
ある週末のことだ。
俺が家でくつろいでいるところに、長女が泣きながら帰ってきた。
長女は中学1年生だ。
俺は、いつの間にか、あの頃の父と同じような年代になっていたんだ。
「どうしたんだ?」
長女は、俺に声をかけられて、更に涙があふれ出していた。
聞くところによると、
部活の練習の中で、1年生同士の試合をやったら、自分の方が上手だと思っていた相手の子に、最後逆転負けをしてしまったとのことだ。
父親のフレーズ、
「男なら、泣いちゃダメだ。泣いて良いのは両親が死んだときだけだ。」
は使えない。
俺は言った。
「その悔しい気持ちを忘れないようにね。」
「その悔しさが、自分を成長させてくれるんだよ。」
そう声を掛けた後、そんな悔し涙を流せるほど、真剣に取り組むことができている長女の成長が嬉しくて、目頭が熱くなった。
*****
俺は、これまで何度も泣いている。
両親が死ぬという場面には、まだ遭遇していないが、
ショーシャンクの空を観ては泣き、
陸王を観ては泣き、
ラグビーワールドカップを観ては泣き、
運動会で娘たちが頑張っている姿を観ては泣き、
フルマラソンを走っては泣き。
俺の涙、安いな。笑
悔しい気持ちの涙は、できれば流したくない。
嬉しい気持ちの中、達成感の中、涙を流したい。
横浜マラソン。
湘南国際マラソン。
来年の静岡マラソン。
達成感の中、涙を流せるように、これからしっかり準備をしよう。
俺、もっと速く走れるようになりたいっす。
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