先日のOTT5000mで、自分のフォームが「腰低フォーム」だと思い、「腰高フォーム」にするために必要なことを自分なりに運動力学的な観点からまとめてみた。
このあたりのことがまとまっている文献がないので、いろいろな文献を読んだ結果の私見をまとめる。
間違っている点もあると思いますし、難解な言葉も多いかと思いますので、ご指摘やご意見なども頂けるとありがたいです。
スプリング-マスモデルと最適なピッチ
ランニングは、前方向へのジャンプを繰り返す運動に見立てられる。
ランニングの力学を解説する際に、よく用いられるのが、「スプリング-マスモデル」だ。
筋肉をバネ「k」、各骨格の重さを質量「m」と見立てて、モデル化する手法だ。
※"Leg adjustments during running across visible and camouflaged incidental changes in ground level"のFig.3より引用
一般的なバネは、最初に与えられたエネルギー(バネの場合は、変位)が与えられると受動運動(振動)を続ける。
この振動の振動数を、固有振動数という。
固有振動とは、ギターの弦のように、外力が加わると、振動しやすい振動数で振動する現象のことだ。
細い弦は、高い音(高い振動数)が、太い弦は、低い音(低い振動数)が出る。
スプリング-マスモデルにおける固有振動数は、ランニング時のジャンプの回数、すなわち「ピッチ」と考えられる。
固有振動数「fn」の計算式は、バネの硬さ「k」と、質量「m」の式で表わされる。
k:バネ係数
m:質量
この式から分かることは、
バネ係数k 大 → 固有振動数 高
質量m 小 → 固有振動数 高
固有振動数を高くするためには、バネを硬するか、質量を小さくする必要がある。
ランニングに置き換えると、
ピッチを高くするためには、筋肉のバネを硬くするか、体重を軽くする必要がある。
と言える。
ランニングは、完全な受動運動ではなく、自ら能動的な力を発揮しながら推進力を得る。
なるべく能動的な力を発揮せずに、慣性に従って受動運動を続けることで、エネルギー効率の良い走りが可能となる。
このあたりに関しては、
「Stretch-Shortening Cycle」
「ストレッチ・ショートニングサイクル」
「伸長‐短縮サイクル」
などのキーワードで調べると、より理解が深まる。
筋肉がバネのように機能するための「反射」をうまく利用することが、エネルギー効率を高めるために重要だ。
着地時の地面から受ける力を、筋肉のバネに弾性エネルギーとして蓄えて、その弾性エネルギーを次の動作に効率よくつなげる。
ヒトのランニングにおける固有振動数(適したピッチ)を正確に求めることは非常に難しい。
関節間の重さ、各筋肉のバネ係数をもとに計算する必要がある。
人それぞれ、骨格も違うので、一般化することもなかなか難しい。
一般的に言えることは、
筋肉のバネ係数を上げることで、固有振動数(ピッチ)を上げられる。
体重を減らすことで、固有振動数(ピッチ)を上げられる。
この固有振動数が、ランニング時のピッチと近ければ、受動的な運動として、エネルギー効率が良く、1歩1歩の動作を行えることになる。
人間は、筋肉のバネ係数を柔軟にコントロールできる。
これは、コンプライアンス制御と呼ばれたりする。
バネ係数の最大値を上げられれば(ダイナミックレンジを広げられれば)、ピッチの制御がしやすくなり、どんな速度で走ったとしても最適なピッチでエネルギー効率を高く走れると考えられる。
最適なピッチで走るために、制御可能なピッチのダイナミックレンジを広げることが重要で、
筋肉のバネ係数(筋スティフネス)を高めること、
体重を減らすこと、
は、より良いランニングエコノミーを得られると考えられる。
地面反力と接地時間
バネのように弾むためには、地面からの反力が必要だ。
走るときの推進力は、着地した際に地面から受ける地面反力から得られている。
つまり、地面反力が大きい方が、推進力が大きくなる。
この地面反力は、ブレーキする力と推進力が含まれる。
加速するときは、推進力の方が大きく、速度を緩めるときは、ブレーキする力が大きくなる。
一定の速度で走っている場合、ブレーキする力と推進力が拮抗している。
※正確には、ランニング時は、風の抵抗を受けるため、一定の速度で走るためには、「推進力>ブレーキの力」の必要がある。
ブレーキする力を小さくした方がより楽に前に進むことができる。
よく言われることが、「重心の前に足を着地すると、体を前に運ぶための余計なモーメントが必要となるので、真下に着地する方が良い」ということがあるが、これは、ブレーキする力をより小さくするために重要なポイントだ。
地面反力は、走る速度が上がると、そのピークが上昇する。
速く走るために、ストライドを伸ばす/ピッチを上げるなどの必要があり、地面との接地時間は短くなる。
※「第11回 走のバイオメカニクス」の図11.4より引用
ランニング時は、実に体重の2倍から4倍程度の力を地面から連続して受けているのだ。
速度を上げた練習をすると、より大きな力がかかるため、故障のリスクが高まることも良く分かる。
バネの話に戻ると、
かかる力が大きい → バネの変位が大きい
ことは分かると思う。
すなわち、ランニングで言うと、
速く走る
↓
地面反力が大きくなる
↓
重心の上下動が増加する
バネは、ある力がかかったとき、バネ係数が大きいとバネの変位は小さくなる。
バネ係数が小さい(柔らかいバネ)は、伸びやすく縮みやすい。
バネ係数が大きい(硬いバネ)は、伸びにくく縮みにくい。
筋肉のバネ係数が大きいと、変位は少なくなり、重心の上下動は小さくなる。
腰高/腰低は、この筋肉のバネ係数が関係しているのではないだろうか。
筋スティフネスが低いと、地面反力による変位が大きくなり、重心に近い腰の上下の変位が大きくなり、腰が落ちているように見える。
筋スティフネスが高いと、地面反力による変位は小さくなり、腰高のフォームに見える。
※筋スティフネスとは、筋肉のバネ係数のこと
重心の上下動が大きいと、前方への推進力に使えない無駄な動きが大きくなり、ランニングエコノミーは低下する。
ある速度で走っているときの上下動を、なるべく小さくすることは、ランニングエコノミーを高める上では、重要だ。
なお、接地時間が長い人は、接地時間を長くすることで地面反力のピークを抑えていると考えらえる。
接地時間が長いと、ペタペタと走っているように見える。
大きな地面反力に耐えるだけの脚ができあがっていないということだ。
筋スティフネスを向上させることで、大きな地面反力に対する耐性が得られ、接地時間の短縮は可能で、結果、ストライド長の向上、ピッチの向上を楽に行えるようになると考えられる。
まとめ
ランニングをスプリング-マスモデルと見立てた場合、バネ係数=筋スティフネスを高くすることが、ランニングエコノミーを向上させるために非常に重要。
もちろん、体重を減らすことも効果がある。
筋スティフネスを高くする、体重を減らすことで、
・楽に最適なピッチを制御できるようになる
・少ない上下動で、速度を維持できるようになる
と考えられる。
筋スティフネスの向上のためには、以前のエントリーにも書いたが、「プラオメトリクス」が良い。
その代表的なトレーニング方法として、「縄跳び」を今後取り入れていきたい。
縄跳びの効果は、また後日、ご報告いたします。
いつもありがとうございます!ポチっとお願いします!
にほんブログ村