「それは、悪手だな。」
「『桂馬の高跳び歩のえじき』って言ってな。桂馬はしっかり先を読んだ上で、使った方がいいんだよ。」
「『金底の歩、岩よりも堅し』って言ってな。金の下に歩があると、飛車の道を抑えられたり、守る上で非常に役立つんだよ。」
小学生の頃の話だ。
俺は、父親に将棋を教えてもらっていた。
忙しく働いていた父とは、平日は全く会えず、週末に将棋をする時間は、自分にとっては大事な時間だった。
詰将棋や、矢倉や穴熊、船囲いなどの基本戦法に関する本も何冊も買って、スーパーファミコンの将棋ゲームもやっていた。
父は、非常に強くて、全く太刀打ちできず。
負けるたびに悔しくて、何度も泣いていた。
福井のおじいちゃんや、蒲田に住んでいたおじさんも将棋が強くて、遊びに行ったときに、将棋を打たせてもらっていた。
アマチュア初段の実力を持っていた蒲田のおじさんに初めて勝ったときは、本当に嬉しかったことを覚えている。
そんな俺は、小学校では、将棋は負け知らずで。
ボールペンで書いた将棋盤に、鉛筆で駒を書いて、休み時間に友達と将棋を打っていたが、全く負ける気がしなかった。
クラスの男子で、「将棋リーグ戦」を行ったけど、あまりに俺が強くて、途中からみんな飽きてしまった。
俺が優勝するのが、目に見えていたから。
*****
中学生になると、囲碁を勉強するようになった。
同じクラスに、プロ棋士を目指して、棋院に通っている友達がいたから。
囲碁もそこそこ打てるようになって。
奥さんと結婚する前に、お義父さんと囲碁を打たせてもらったとき、そこにある盤上のコミュニケーションが、何かの繋がりを感じさせてくれた気がした。
そして、囲碁をかじっていたおかげで、漫画「ヒカルの碁」が、よりリアルに感じられた。
社会人になって、バックギャモンというゲームと出会った。
全世界で3億人を超える競技人口という、チェスに続くメジャーなゲームだ。
今でもバックギャモンは、スマホアプリで楽しんでいる。
そのバックギャモンを教えてくれた、会社の先輩とは、将棋をたまに打つような関係でもあって。
あるとき、近所にある将棋サロンに一緒に行ってみようと誘って下さった。
将棋からはしばらく離れていたけど、その辺のおじさんにはまだ負けないだろうと思って、乗り込んでみた将棋サロン。
そこには、2組ほどのおじさんと、中学生3人がいた。
当時俺は、25歳。
中学生の3人と話をすると、
「新進棋士奨励会に所属している」
と。
それって、プロ棋士を目指しってるってことですよね?
3人は、恥ずかしそうに頷いていた。
その中の1人と一戦打たせてもらうことになった。
自分のこれまでの将棋の経験を話すると、そのプロ棋士候補生は、
「じゃぁ、僕が飛車角落ちでやってみましょう。」
と。
「え??いいんですか?」
「はい。」
相手がプロ棋士を目指しているとは言え、俺もそこそこ打てると思っている。
飛車角落ちでなんか、負ける訳ない。
そう思いながら打たせてもらった。
結果、あれよあれよという間に、俺の陣形が崩され、大駒も取られてしまい、完膚なきまでに叩きのめされた。
25歳の俺、中学生に完敗。
この時、プロを目指すという人と、素人(俺)との差を痛感し、一つのことに没頭して継続することで得られる力の大きさを知った。
*****
弱冠18歳の藤井聡太棋士。
プロになってから、驚異の連勝記録。
加藤一二三棋士、
羽生善治棋士、
森内俊之棋士、
など、名だたる大御所の棋士に勝利し、
渡辺明棋士に勝利し、棋聖のタイトルを獲得し、
木村一基棋士に勝利し、王位のタイトルを獲得した。
藤井聡太棋士の棋譜は、ここ最近、すべての対局、見ていて。
8月19日/20日の王位戦は、お互い守りが固まっていない不安定な陣形の中で、序盤から飛車角が飛び交うダイナミックな展開で、面白い将棋だった。
shogidb2.com
18歳の若者が、名だたる大御所を倒して、のし上がれる世界。
俺が生きている世界とは、大きな違いがあるな。
そんなことを想いながら、朝の爆弾投下の時間に、スマホアプリの将棋を打っている俺。
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