子どもの頃、タクシーに乗るなんて本当に贅沢だと思っていた。
家族で出かけることがあっても、徒歩+電車で移動していた。
歩ける距離であれば、バスに乗ることすら贅沢だと思っていた。
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このお盆。
夏季休暇を利用して、うちら家族、娘3人とチワワ1匹、奥さんと俺で、山口県は柳井市に帰省した。
柳井市は、奥さんの両親の実家だ。
台風の影響で8月15日は、山陽新幹線が運休するということだった。
うちら家族が柳井から自宅に戻る日は、8月14日だったので、直接の影響はなかった。
だが、柳井から広島までの山陽本線(在来線)は、移動を急ぐ乗客で激込み。
広島駅からは、デッキと通路を埋めつくす乗客で、新幹線に乗り込むことすら大変だった。
新幹線に乗っても、通路を乗客が埋め尽くしていたため、ずっとおしっこを我慢していた。
真後ろの席には1歳くらいの赤ちゃんがおり、1時間くらい駄々をこねてずっと泣いていた。
慣れない長時間の移動に、いつもと様子が違うチワワのケアをし続けた。
最寄り駅に到着した頃には、家族みんな激疲れ。
タクシーに乗ることにした。
タクシーの運転手は、制帽を被り、制服を着て、トランクルームへ荷物を載せる際も丁寧な対応。
タクシーは冷房が効いており、いい匂いがした。
その瞬間、子どもの頃の記憶がよみがえった。
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俺が子どもの頃の、ある夏。
家族みんなで両親の実家がある福井から帰省するとき、台風が直撃し、自分たちが乗車する予定だった新幹線が運休となり、米原から東京までの約2時間強、新幹線のデッキに立って移動することになった。
自宅の最寄り駅に到着して、家族みんなで疲れ果てていた。
「ここからこの重い荷物を持って15分くらい歩かなきゃいけないのか。。。」
と思っていたところ、父が、
「今日はタクシーで帰ろう。」
と。
これが、俺の人生初のタクシーだった。
背負っていたリュックをトランクに積めてくれた制服っぽいのを着たタクシーの運転手さん。
すごく丁寧だと思った。
ぬるぬるした屋外から乗り込んだタクシーには冷房が効いており、いい匂いがした。
父は、助手席に座り、運転手と会話をしていた。
「台風の影響で今日は忙しいんじゃないですか?」
たぶん、そんなことを聞いていたのだろう。
自宅までは、700mほど。
ワンメーター。
470円だった。
父は、運転手に1000円札を渡し、
「お釣りは取っておいて下さい。」
と。
は?
子どもながらに、470円の料金に対して、1000円を払うことに対して、非常に驚いたことを鮮明に覚えている。
1000円を支払った父に、母が、
「そんなにすることなかったんじゃないの?」
と言っていたことを覚えている。
父は、
「良いんだよ。俺たちにとっては1000円くらいの価値はあっただろ。」
と。
なるほど。
うちらは、ただタクシーに乗った訳じゃなかったんだ。
家族4人で、遠くから移動して最高に疲れた状態で、多くの荷物を持って、冷房の効いた車に乗った5分間に対して、家の前まで送り届けてくれたサービス。
そこにお金を払ったんだ。
470円以上の価値を提供してくれたと感じたんだな、って思った。
そう感じた時に、
「お釣りは取っておいて下さい。」
ってことになるのかな、って思った。
470円の買い物に、何の躊躇もなく1000円を払った父親が、なんだか大きく見えた。
*****
昼の12時に柳井を出発して、最寄り駅に到着したのが19時45分。
ここまで8時間弱の移動。
混雑の影響もあり、疲れに疲れを上塗りするような激疲れ。
俺はタクシーの助手席に座り、昔のことを思い出していた。
「俺も『お釣りは取っておいて下さい。』を繰り出す必要があるんじゃなかろうか。」
最寄駅から自宅までは、ワンメーター。
730円だ。
気分が良かった俺は、1000円を払って、「お釣りは取っておいて下さい。」作戦を決行しようか迷っていた。
でも、やめておいた。
いや、中途半端にしておいた。
「お釣りは、200円で良いですよ。あとは取っておいて下さい。」
730円の料金に対して、800円の支払い。
そのくらいが自分には丁度いいかなって思ったから。
俺はまだ、あの当時の父と比べて、そこまで大きな人間になれていない。
そう思って、でも運転手さんに「疲れているところすごく助かりました」の感謝の気持ちを伝えようと思って。
父が余計に支払った530円と、俺が余計に支払った70円。
俺はいつになったら父の背中に追いつけるんだろうか。
父との差は、金額的にはワンメーター以下。
でも、もっともっと大きい違いがある気がする。
そんなことを感じた2019年のお盆。
※ちなみに父は、まだ生きています。
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