風が強い日のランニングは、非常にキツい。
練習を積み重ねて標準を合わせてきたレースが、台風並みの強風だった日には、DNSすら頭をよぎる。
だが、諦めるのは早い。
どうやら、ランナーの後方を走ることによる「風よけ」は、結構な効果をもたらしてくれるようだ。
俺が次の週末に出場する「板橋Cityマラソン」は、河川敷のレースで、強風に悩まされることも多々あるようだ。
だから、しっかり調べてみたぞ。
ランナーの風の影響は「流体力学」で語れる
風が強いと走りにくい理由
風が強いと、走りにくい。
風上に向かって走ると、風の力をもろに受けて、スピードを出しづらくなる。
それを絵で表現すると、こちらのようになる。
ランナーの前方からは、風による風圧。
ランナーの後方には、風の流れが乱れることによる無数の渦ができる。
これは「伴流」、または「スプリットストリーム」などと呼ばれる。
ランナーの後方は、風の流れが遮られることによる、「マイナスの圧力」が発生する。
ランナー前方からの圧力とランナー後方のマイナスの圧力。
この差が、風から受けるランナーが感じる力となる。
当然、風速が大きければ、この力が大きくなる。
風が強いと、風から受ける圧力と、風下にできる伴流のマイナスの圧力の合計の力を受けるため、風に向かって走ることがキツくなるのだ。
また、風の影響を少なくするためには、
・前方から受ける風の圧力を減らすこと
・後方にできる伴流によるマイナスの圧力を減らすこと
が重要となる。
ランナー後方にできる「マイナスの圧力」を視覚的に理解するには、後ほど紹介しているYoutubeの動画が参考になる。
障害物の後方の圧力は低くなっている(青い色の部分)ことが視覚的に理解できる。
レイノルズ数と渦
空気や水、そのほかの粘性をもった流体の流れを語るとなると「レイノルズ数(Re)」という無次元の数値が重要となる。
この章は、俺の趣味なのですっ飛ばしてくれてもOKだ。
簡単に説明すると(正確ではないが)、
「レイノルズ数が小さい = 流れが緩やかになる」
「レイノルズ数が大きい = 流れが激しくなる」
ということだ。
レイノルズ数が小さいと、「層流」と呼ばれ、規則正しい流れができあがる。
なかでも美しいのが「カルマン渦」という渦だ。
レイノルズ数がある値を超えると「乱流」と呼ばれ、無秩序に多数の渦ができ、シミュレーションが複雑になる。
※ちなみに天気予報が難しいのは、空気の流れに乱流が多いためだ
レイノルズ数と、物体の後方にできる流れを、視覚的に理解していただくには、こちらの動画が最適だ。
www.youtube.com
こちらの動画の3分あたりに、障害物の後方の流れと、レイノルズ数の関係が分かる動画がある。
レイノルズ数が271、594のときは、「カルマン渦」が美しくできていることが分かる。
しかし、レイノルズ数が2902のときは、障害物後方に乱流が発生していることが分かる。
障害物の後ろ側の伴流の中から見ると、
まさに、
「父さんの言ったとおりだ。向こうは逆向きに風が吹いている。」
の状態だ。
そして、かの有名なシーンが頭に浮かぶわけだ。
「すぐそこに風の壁があるよ!」
「だめだぁ!吸い込まれるっ!」
「男が簡単にあきらめるんじゃないよっ!」
「行こう!おばさん!父さんのいった道だ。」
「父さんは帰ってきたよ!」
「よぉし!行こうっ!竜の巣へ!!」
もちろん、「天空の城 ラピュタ」も俺の大好物の一つだ。
以上、機械工学科出身の俺の趣味でした。
このあたりについて、もっと知りたい場合は、以下のホームページを参照ください。
空気抵抗と形状の関係 ー 流線型やゴルフボールのディンプルの効果 | 鳩ぽっぽ
ランナーの後ろにつけ!!
ランナーの風よけについて、しっかり検証している論文なんかあるのか。
あるんです。
1971年の比較的古い論文だが、「ランナーの風よけ」関連の論文としては、最も引用数が多く、権威ある論文だ。
ランナーの風の影響という一般的な問題、を工学的アプローチで検証している、俺の大好きな類の論文。
こちらの論文では、前方から風が吹いている場合のランナーの後方の圧力を図で示してくれている。
ちなみに、こちらは風速18.5m/s、ランナーは時速20.6km(キロ2分47秒ペース)で走っている場合でシミュレーションしている。※上記論文のFig.9より
ランナー前方の風圧が、2.25[kg/m^2]の場合、ランナー後方40cmから80cmの圧力は、0.05~-0.05[kg/m^2]と、非常に小さくなっていることが分かる。
要するに、
「走っている誰かの後方にピタッとついて走るだけで、前方からの風圧を大幅に軽減できる」
ということだ。
この論文の結論としては、
風速18.5m/s、ランナーは時速16.02km(キロ3分45秒ペース)で走っている場合、
誰かの後方1mにピタッとついて走ったら、エネルギーコストを「7.5%」も抑えられる、
と報告している。
ペーサーが2人いる場合はさらに効率が良いぞ!
さらには、こちらの日本語の論文。
複数の風よけのペーサーがいた場合に、どのように効率が変わるかを検証している。
単独走、2人で走る、3人で走る、4人で走る、のそれぞれのパターンで検証している。
人数が多くなればなるほど、風の影響を軽減できる。
が、最も効率が良いパターンは、
「3人で走って、真ん中で走る」
このパターンだ。
※上記論文のFig.6より
単独走と比較して、3人の真ん中で走ると、風の抵抗は「約11%」まで軽減されるという。
なお、誰かの後ろにピタッとつくと、「約24%」まで風の抵抗を軽減できる。
さらに、3人の集団で走る場合、先頭のランナーも、後ろに付いた2人のランナーの影響で、風の抵抗を軽減できる。
この力学は、少々複雑なので、説明は割愛する。
※論文には、シミュレーション結果は掲載されています
ちなみに、ランニングにおける風の影響を語る場合は、遅く走ったとしても、レイノルズ数が10の3乗を超えるような大きな値であり「乱流」の議論になる。
そのため、本質的には、
「誰かの後ろについて走ることは、風の影響を軽減する」
と結論付けて問題ない。
まとめ
風が強い日のレースは、厳しい戦いになる。
だが、誰かの後ろにピタッとついて走ることで、風の影響を大幅に軽減できる。
もし恵まれた環境で2人のペーサーがいたとしたら、ペーサーに挟んでもらって、3人の真ん中を走ると良い。
そして、風の壁になってくれるランナーは、なるべく体が大きい人が良い。
速く走れば速く走るほど、風が強ければ強いほど、風よけの効果が大きくなり、
そんなに速く走れなく、風が弱いと、風よけの効果は小さくなる。
それでも、誰かの後ろにピタッとついて走ることで、風の影響を軽減できる。
だいたい、前の人の身長の半分くらいの距離にピタッとつけると良い。
身長170cmのランナーの後ろを走るのであれば、85cm後ろをピタッとつけて走ろう。
論文上、誰かの後ろに付くことで7.5%のエネルギーコストが軽減されると報告されているが、
実際は、マラソンのレース中、最初から最後まで、前方から風が吹いているわけでもないし、
それほど大きな効果は得られない可能性が高い。
でもね、風が吹いていなかったとしても、誰かの後ろをピタッとつけて走ることは、少なからず効果がある。
いいか、前のランナーの身長の半分の距離を目安にピタッとつけて走るんだ。
その1秒を削り出すために。
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