ランニングの能力を決める大事な要素は、3つあると言われている。
最大酸素摂取量 VO2MAX
乳酸性閾値 LT
ランニングエコノミー
このうち、乳酸性閾値(LT)について、エネルギー代謝の観点から調べたので報告したい。
■乳酸性閾値(LT)とは
乳酸性閾値とは、英語でLactate Threshold、頭文字をとってLT(えるてぃー)と呼ばれる。
運動の強度を上げていくと、血中乳酸濃度が大きくなる。
ある強度から、血中乳酸濃度の上がり方が急激になるポイントがある。
そのポイントを乳酸性閾値と呼ぶ。
Wassermanらの定義によると乳酸性閾値は「血中乳酸が持続的に増加することなく行いうる最高の運動強度」である。
この定義に従うと、乳酸性閾値を測定するために、いくつかの運動強度で持続的な運動を行い、定期的に採血する必要があり測定が難しいため、乳酸性閾値の指標として、
・血中乳酸濃度が2[mmol/L]のポイント
・安静時血中乳酸濃度から1[mmol/L]ポイント
を指標とすることが多い。
また、血中乳酸濃度が4[mmol/L]のポイントを血中乳酸蓄積開始点(OBLA:Onset of Blood Lactate Accumulation)と呼ぶ。
乳酸性閾値のスピードが高ければ、そのスピードを持続的に維持できるので、乳酸性閾値は持久的な運動の指標と用いられている。
トレーニングをすることで、乳酸性閾値で持続的に走ることができるスピードが向上できる。
乳酸性閾値について、より理解するには、こちらの論文が良い。
「運動の指標としてのAT、LT、OBLAの持つ意味」
■運動強度と乳酸と
なぜ、この血中乳酸濃度が持続的な運動能力と関係があるのか。
そこを理解するには、エネルギー代謝(エネルギーを作る仕組み)を知っておく必要がある。
人間がエネルギーを作る方法は3つある。
・ATP-CP系
・解糖系
・有酸素系
の3つだ。
これらのエネルギー代謝は、筋肉を動かすために必要なATPというエネルギーを作る代謝だ。
ATP-CP系は、100mの短距離走やジャンプなど、一気に力を発揮する際に使われるエネルギー代謝。
マラソンなどでは、ほぼ関係ないので、ここでは割愛。
持久的な運動で主に使われるエネルギー代謝は、解糖系と有酸素系になる。
解糖系代謝
筋肉や肝臓に蓄えらているグリコーゲンがグルコース(糖質)となり、そのグルコースから、エネルギーとなるATPを作り出す。
主にグリコーゲンが多く蓄えられている速筋で起こる代謝。
エネルギーを作り出す過程で、乳酸ができる。
反応は早い。
有酸素系代謝
血液中の脂肪酸、乳酸(正確にはピルビン酸だけど、この際乳酸でOK)、酸素からエネルギーとなるATPを作り出す。
主にミトコンドリアを多く含む遅筋で起こる代謝。
TCA回路の反応には、時間がかかる。
これを図にしてみたものがこちら。
この図を描くのに調査3日程度、パワポで1時間かけてみた、渾身の力作。
仕事で作る資料以上の質の高さ。
速筋の動員が多くなるような運動強度の高い運動になると、解糖系代謝が多くなる。これにより、ピルビン酸が多く作られる。
ミトコンドリアが中心となる有酸素系代謝で、ピルビン酸を使いエネルギーを作る。
解糖系代謝で作られるピルビン酸と有酸素系代謝で使われるピルビン酸の量が釣り合っていれば、乳酸が溜まらない。
しかし、運動強度が上がってくると、解糖系代謝で作られたピルビン酸を使いきれず、乳酸となり血中の乳酸の濃度が向上する。
ピルビン酸の生産量が、ピルビン酸の利用量よりも多くなると、その強度の運動を継続できなくなってくるというわけだ。
細胞内で処理しきれない乳酸は、肝臓で再びグルコースとなり、体内に保管される。
肝臓内のこのサイクルは、コリ回路と呼ばれる。
■乳酸性閾値を向上させるために必要なこと
ここまでで分かったことは、乳酸性閾値を向上させるためには、有酸素系代謝能力を向上させる必要があるということだ。
有酸素系代謝は、ミトコンドリア内のTCA回路で起こるものなので、このミトコンドリアの数を増やす必要がある。
さらに、各細胞に酸素や脂肪酸をより運べるようにするために、毛細血管が太く数多く存在する必要がある。
また、有酸素系代謝では、多くの酸素を必要とするため、酸素摂取能力が高い必要がある。
すなわち、エネルギー代謝の観点からは、
・ミトコンドリアを増やす
・毛細血管を増やす
・酸素摂取能力を高める
が乳酸性閾値を向上するために必要なことになりそうだ。
エネルギー代謝を理解すれば、一般的に言われていることがよりしっかりと理解できる。
ミトコンドリアを増やすためのトレーニングは、強度なインターバル走。
これについては、以前調査したので、詳細はこちらのエントリーを。
all-out-run.hatenablog.com
また、毛細血管については、運動の継続時間が長い運動であれば、増える。そして強度が高ければ、太い毛細血管ができる。
これについても、以前調査したので、詳細はこちらのエントリーを。
all-out-run.hatenablog.com
酸素摂取能力の向上は、VO2MAXの向上ということになると思うが、ここはあまりしっかり調べられていない。
やはりインターバル走がよさそうな気がするけど…
エネルギー代謝をきちんと理解して分かったことは、高強度のインターバル走が乳酸性閾値の向上に強く寄与しそうだ。
ということかな。
「キツい。もう止まりたい。」と思ってからのその先。
精神的限界を超えたその先にある、肉体的限界に近づけたトレーニングを行うことが重要なんだと思う。
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