「前から、好きでした。」
異性から、そんなことを言われたら、どんな回答するだろうか?
~~~~~
月曜日。
夕食を食べ終わり、食卓から離れ、ソファでくつろいでいると、まだご飯を食べている娘たちと奥さんが、小声で色めき立っていた。
「えー!桜子、すごいじゃん!」
「どんな人?どんな人?」
どうやら、中学3年生の桜子は、男子から告白をされたらしい。
「前から、好きでした。」
と。
LINEで。
時代だな、って思った。
俺は、ワールドカップ2次予選、日本対タジキスタン戦を観ながらも、食卓の方に聞き耳を立てていた。
おかげで、南野選手のゴールシーンを見逃してしまった。
聞いていると、桜子は、告白された男子には興味がないらしい。
「良い人」
ではあって、長身で、3年生になってクラスが変わったけれど、LINEのやり取りはたまにしていたような仲。
奥さんは、その「長身良い人男子」の気持ちを考えたら、断るのは忍びないと思っているらしく、
「『長身良い人男子』じゃダメなの?断ったら、傷ついちゃうよ。それでもいいの?」
「可能性はゼロなの?」
なんて言って、「長身良い人男子」の味方だ。
俺は、心穏やかではなかった。
が、俺が入ると、面倒なことになりそうだったから、タジキスタン戦に集中しているフリをしていた。
奥さんの説得に対しても桜子は妥協せず、
「絶対に気を持たすようなことは言わない」
「付き合うことはしない」
「そもそも付き合いたい人なんかいないし」
「てか、『好き』って言われただけど、『付き合おう』とは言われてない」
と、俺にも聞こえているぞ、って思うくらい、語気を荒げていた。
いいぞいいぞ。
この強気な感じ。
そう思う反面、これが続くと、将来、苦労しそうな気もした。
で、結局桜子は、
「ビックリ」スタンプ。
「ありがとう。」のメッセージ。
をセットで送ったようだった。
その返しは、ちょっと気を持たせているんじゃないだろうか。
と思いながら、気もそぞろな俺。
そしてしばらくすると、
「あ!返信来たっ!」
と、もはや大声を発する桜子。
観客ゼロの日本対タジキスタン戦のゴールシーン以上の盛り上がりを見せる、全力家の女子一同。
「うぉぉぉぉぉぉーーー!」
という歓声が巻き起こる。
このおかげで、俺は、橋本選手のゴールシーンを見逃した。
そして、いてもたってもいられず。
我慢ならず、
「どうした?何があった?」
と、会話に参戦したのだった。
「『俺と付き合ってください。』ってLINE来た!」
と桜子。
「ほらほらほらほら。そりゃそうだよ。」
「『ありがとう』なんて送ったら、相手は『あ、いけるかも』って思っちゃうよ。」
と、俺。
「え?なんでパパ、それ知ってるの?」
「・・・」
~~~~~
俺は、タジキスタン戦の後半戦をほぼ観なかった。
桜子は、どう返信すれば、「長身良い人男子」を傷つけずに、これからも仲良くいられるかについて、ネットで検索していた。
時代だな、って思った。
「パパだったら、何て返信が来たら傷つかない?」
なんて聞かれた。
おう。
そりゃな。
どんな返信が来ても、フラれたら、傷つくに決まってんだろよ。
「桜子が、今感じてること、素直に書けば良いと思うよ。」
「自分の気持ちにウソをついたら、後々、つらいことになるよ。」
とか、言ってみて。
~~~~~
翌朝。
桜子は、なかなか起きてこなかった。
どうやら、夜遅くまで眠れなかったようだ。
いいね。
これ、青春ってやつなんだろうな。
桜子、その後、何て返信したんだろう。
さてと。
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