ここに書くことは、まぎれもない事実だ。
「死ぬかもしれない」と思ったが、今確実に生きていて、このブログを書いている。
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ある日、ソファで寝ていた日。
目が覚めると、胸に痛みを感じた。
その痛みは、徐々に増していった。
胸の前面、広範囲に痛みを感じた。
こんな種の痛みは、経験したことがなかった。
家族に心配されるも、しばらく安静にしていたら治るだろうと思い、痛みをこらえていた。
痛みはどんどん強くなり、どんな体勢をとっても痛みが和らぐことはなかった。
心なしか、息を吸い込みにくい。
熱は平熱。
「早く病院行こうよ!」
奥さんと長女が言う。
俺は病院が嫌いだ。
だから、しばらく我慢した。
ネットで自分の症状を調べたかったが、スマホを操作できるような状態ではないほど、痛みが強かった。
奥さんが調べると、
心筋梗塞、狭心症、気胸(肺に穴が開く病気)などが出てきた。
強い痛みと1時間ほど格闘したが、調べて出てくる病名が、命に関わるものしか見つからないため、病院に行く必要があると判断した。
好きとか嫌いとかの問題ではなさそうだ。
救急車を呼ぶレベルだったかもしれないが、まずは町医者に向かった。
奥さんの運転で、俺は2列目シートに座った。
心配そうに見送る娘3人。
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診察を待つ間、痛みは激痛に変わっていた。
新型コロナの症状の場合、診察してもらえない可能性があるらしく、車で問診。
問診の間も痛みで悶絶。
痛みのせいで、呼吸も浅い。
いや、深く呼吸をすると痛い。
一刻も早く診察してもらい、何かしらの処置をしてもらいたいと思うも、そうもいかないようだ。
まじで、新型コロナ、やめて欲しい。
問診の結果、新型コロナではなさそうだということで、診察開始。
聴診器、血圧、心電図、血中酸素濃度を計測。
血中酸素濃度が「94%」と、かなり低めの値が出た。
この病院では、何の病気なのか分からないし、これ以上何もできないとのことで、総合病院の紹介状を書いて頂いた。
しかし、その総合病院、この病院から車で40分くらいかかる場所だった。
でも、しかたがない。
奥さんの運転で、総合病院を目指す。
この移動中、胸の痛みは、最高潮を迎えた。
気を失うレベル。
「この痛み、俺は長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかった」と思う。
※「鬼滅の刃」 第24話 炭治郎のセリフより
この時、俺は「死」を覚悟した。
運転する奥さんに対して、
「もし、俺が死んだら、、、」
と言いかけた。
人は、死ぬ直前に走馬灯のように記憶がよみがえると言う。
真っ先に浮かんだのは、楓子の顔だった。
「楓子もこれくらいキツい思いをしていたのだろうか。」
次々に娘たちの顔、奥さんの顔が思い浮かぶ。
「家族と一緒に、もっとやりたいことがたくさんあるんだけど。」
ずっと辛い想いをさせてしまっていた人の顔が思い浮かぶ。
「『ごめんなさい』って言えないまま、俺はいなくなるんだな。」
感謝の気持ちを伝えられていなかった人の顔が思い浮かぶ。
「『ありがとう』と直接言わなくちゃいけないのに。」
そして、両親。
「『子どもは絶対に親より先に死ぬなよ』って言われていたのに、そうなってしまうかもしれない。ごめんなさい。」
やっぱり、死ぬわけにいかない。
痛みに耐えながら、意識を保った。
*****
総合病院に到着すると、看護師の方に問診を受けて、車いすに座らせられた。
ここで奥さんと離れ離れになる。
少しの段差を越えるたびに、痛みがキツく感じる。
車いすで運ばれると、小型の移動式ベッドに移された。
上着を脱がされ、お医者さんに問診されながら、点滴を付けられる。
血中酸素濃度の装置、心電図と呼吸数が分かる装置を付けられる。
ピッピッと音が鳴り始めた。
そのまま、その場でレントゲン写真を撮影。
胸部、腹部のエコー検査。
何やら、難しい言葉で検査員とお医者さんがやり取りをしている。
「俺、一体、どこが悪いんですか」
そう思いながらも、怒涛の勢いで検査と問診が続き、次にCT検査をすることになった。
痛みは、平行線か、少し和らいで来ているように感じた。
ベッドに寝たまま、CT検査室へ。
普通のCTと、造影剤を投入してのCT、2回撮影。
造影剤が体に入ると、体中が焼けるように熱くなることを知る。
その後、検査結果がお医者さんから説明があった。
「専門医の方にも結果を見てもらったが、今のところ、命に関わるような体の異常は認められない。」
と。
「え?いや、この痛み何なんでしょうか。」
「今のところ、良く分からない。しばらく安静にして様子を見て下さい。」
と。
あまりの怒涛の検査に、気付けなかったが、その頃、痛みは、だいぶ和らいで来ていた。
ただ、深く呼吸をすると痛みが強くなり、相変わらず浅い呼吸しかできない状態だった。
結局、俺は、そのまま何の薬も出ず、2万円のお会計をして、胸の痛みが残るまま帰宅することになった。
*****
午後3時。
この日、朝起きてからお茶以外、何も口にしていなかったことを思い出し、おにぎり1個、ポカリ500mlを。
午後4時過ぎに帰宅。
玄関を開けると、楓子が出てくれた。
「あ!パパ!!」
すごく驚いた様子だった。
朝の俺の様子を見ていて、俺がそのまま入院すると思って、娘たちは入院のための準備をしていたという。
そこに、俺が帰ってきたので、驚いたと。
ふと奥さんの顔を見ると、額に赤いアザができていた。
楓子の看病のときにも同じ場所に出てきたアザだ。
相当なストレスを感じさせてしまったようだ。
本当に申し訳ない。
家に帰ってこれた安堵感から、俺は着替えてすぐにベッドの上で寝てしまった。
痛みは残っており、息を大きく吸い込めない状態のまま。
*****
それから2日がたった頃、胸の痛みは完全になくなった。
結局、何が原因なのか分からなかった。
今年に入ってから、うちの家族には、禍が多く降り注いでいる。
もう、本当に勘弁してほしい。
このコロナ禍が終わったら、俺は、両親の故郷である福井に行こうと思っている。
ご先祖様のお墓参りをするために。
そして、今をしっかり生きるために、日々、やらなければいけないことをやろうと思った。
命は儚い。
いつなくなるかも分からない。
明日が今日と一緒とは限らない。
楓子の経験、自分の経験から学んだことを、忘れないようにしたい。
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