3人娘の親父が走る。いつだって全力中年。

3人娘の親父がランニングを中心に、日々の出来事をそこはかとなく綴ります。

スイスはジュネーブでの出会い。

入社1年目の冬。

俺は、展示会に出展することになり、スイスはジュネーブに出張することになった。

初の海外出張だった。


当時の俺は、そんなに英語ができなかった。



初の海外出張で、ロストバゲージになり、海外での洗礼を浴びることになった。


「There is not my bag there.」


と、辿々しい英語で空港職員に伝えると、職員は俺にブリーフパンツとTシャツのセットを渡してきた。

「お前のスーツケース、たぶんヒースロー空港で、どこかにいっちゃったと思うぞ。」

と言われた。

絶望した。


ブリーフパンツとTシャツだけで2日間過ごすことになった。

ブリーフパンツのサイズが異様にデカくて、海外の方は噂通りデカいのかと思った。

絶望した。



展示会の説明員としてスーツを着る必要があり、ジュネーブの街に買いに行ったものの、お店の店員の女性がフランス語しか話せず、ボディランゲージだけでスーツを購入することになった。

そのスーツは、上下で16万円した。

「もっと安いのが欲しい」

と英語とボディランゲージで伝えようと試みたが、伝わっていなかったようだ。

後日、航空会社から2万円ほど、ロストバゲージの迷惑料をいただいた。

普段の仕事でスーツを着なかった入社1年目の俺は、ジュネーブで上下14万円のスーツを購入したことになった。



初の海外出張は、波乱の幕開けだったのだ。



その展示会には、同じ会社の同僚20名ほどが参加していた。

ホテルから小型バスで朝7時半に出発し、展示会場入り。

18時まで展示会があり、その後、ホテルにバスで移動し、夜飯は自由行動。


英語で説明し、質問対応ももちろん英語。

ほぼほぼ立ちっぱなしだったので、肉体的にも精神的にもズタボロになり、夜、観光する気にもなれなかった。



夜飯は、同僚たちに同行していた。

ある夜、ホテル近くのタイ料理屋さんに入った。

料理がおいしく、店長が気さくで、店の店員も一緒に楽しく話ながら、夜飯を食べた。

すると、帰り際に、店長が俺に近寄ってきて、一言。

「あの店員の子、おまえのことカッコいいって言っているぞ。」

と。


可愛らしい顔をしており、少し小柄。

肌の色は、少し黒く、東南アジア系のエキゾチックな感じがする子だ。


え?ドキッとさせられながらも、

「Thank you.」

と答えながら、笑顔で会釈する。


その子も笑顔で会釈した。



翌日も朝から展示会。

疲れていた。

夜飯、同僚たちは、チーズフォンデュを食べに行くと店を探していたが、

俺は、あのタイ料理屋さんに行きたかった。

「すいません。今日はちょっと疲れているので、コンビニで済ませます。」

俺は嘘をついた。


そして、21時過ぎにタイ料理屋さんに到着。

店は空いていたが、あの子が見当たらなかった。

そこに店長が現れた。

「あぁ、お前か。」

 「こんばんは。あのぉ、あの子は、今日は?」

「今休憩中で奥にいるよ。」


奥の休憩室に入る。


「やぁ」

5mほど向こうにその子がいる。

 「あれ?夜ご飯はもう食べたの?」

「あぁ、これからだよ。」

その子は、少し英語が苦手なようだ。

多少聞き取りにくい。


勇気を振り絞ってみた。


「ところで、2人でご飯でも行かない?」


 「うーん。仕事が毎日夜の24時までなの。その後でいいなら、OKよ。」



OKの返事をいただいて嬉しかったが、正直微妙だった。

24時からご飯食べるなんて、翌日に響きまくりじゃないか。

でも、海外の女性とご飯を食べに行くなんていう、エキサイティングな経験、二度とないかもしれない。

「オッケイ。じゃぁ、24時に店の前に来るね。」


コンビニで、適当に軽食を買い、ホテルで時間を潰した。


一体、どんな展開になるのだだろう。


様々な感情がうごめき、その場に居ても立っても居られなかった。

俺は、腕立て伏せをした。

パンプアップさせるために。気持ちを落ち着かせるために。



24時になり、店の前で待っていると、その子がお店から出てきた。

「やぁ。おつかれさま。」

 「大丈夫だよ。暇だったからね。」

「なら良かった。これからどこに行く?お店やってるとこ、あるかな?」


超絶ドキドキの絶頂の中にいながらも、

「あるいは。。。」

なんて感情もうごめいた。

すると、

 「友達がレストランにいるみたいだから、そこに行ってもいい?」

と。



まぁ、そうだよな。


ここまでトータルの会話が5分程度。

まずは、お互い会話を楽しむところからだ。

「おっけい!そのレストランに行こう。」


レストランに向かう道すがら、月並みな会話を楽しんだ。

月並みな会話で、これほどドキドキできた経験は、初めてだった。


異国の地の深夜、英語、ほぼ初対面、アジアンビューティな外国の方。


しばらくすると、レストランらしきところに到着した。

お店の門には、ドラゴンやらパンダやらの絵があしらってあった。

非常に厳かな門構えだ。

「ここのレストランだよ。」

俺が今まで出会ってきたレストランとは、一線を画す、この「レストラン」。

その厳かな門から、地下に入って行った。


ドキドキした。

このドキドキは、怖さが強いドキドキだ。

俺の全然知らない街ジュネーブで、深夜に、厳かな門をくぐり、地下に連れていかれている。

俺を連れていくアジアンビューティなその子とは、トータルの会話15分程度だ。



店の中は、非常に広かった。

目の前にプロジェクターで大きな映像。

爆音で流れている聞き覚えのある曲。

サザンオールスターズの「TSUNAMI」。


どうやら、カラオケバーだ。


これは、どう考えても、一般的な「レストラン」ではない。


ふと、映像を見ると、気付いた。

字幕が、中国語だった。

「あれ?中国人なの?」

 「そうだよ。どこの国だと思っていた?」

「あぁ、いや。東南アジアの方だと思っていたよ。」


その子と一緒に入った店は、中国人が集まるカラオケバーだったのだ。



当時、ときおり、尖閣諸島の問題で、中国と日本は衝突していた。


異国の地ジュネーブの地下の、中国人が集まるカラオケバーに1人潜入している日本人、俺。


一気に恐怖感に包まれた。


しばしその子に付いていくと、その子は、30人くらいで飲んでいる集団に声を掛けた。

「友達」って、こんなに沢山いるのかよ。。。

その子は、俺に一つ椅子を持ってくると、5人程度いる女子の方に座ってしまった。


俺は、残り25人程度の男たちが集まる輪に入れられた。

少し話をしてみると、みんな中国語でしゃべっている。

フランス語は話せるようだが、英語を話せる人がいない。


俺のアバンチュール的な妄想は、ここで、The End。


と同時に、最高に不安になった。


俺は、この状況から一刻も早く脱出したかった。

翌日の展示会のことで頭がいっぱいになっていた。

カラオケが中国語だから、日本の曲が流れても、いまいちノリきれない。

両隣の男は、英語がさっぱり話せない。

あの子は、遠くで女子たちと談笑している。


するとそんな危機的状況にそわそわしている俺に、近づいてきた男がいた。

見た目、30歳前後だろうか。

小太りで銀ブチメガネの中国人。


中国人マフィア。

またはお金持ちの華僑。

そんな感じがした。


その男は、非常に流暢な英語を話す。

「やぁ」

 「どうも」

「楽しんでるか?」

 「So So」

「お前、日本人だろ?たぶん、ここに来た日本人、初めてだと思うぞ。」


「初めて」という言葉に、少し嬉しかったが、それ以上に一刻も早く、この場から立ち去りたかった。

あまりの緊張で、お酒もおつまみも全然すすまなかった。


だが、その小太りな中国人は、ずっと俺と話をしてくれた。


すごく良い奴だった。


俺は、そいつと約2時間話をし続けた。


ここ最近の中国と日本の経済状況について。

日中の和平問題について。

もちろん、尖閣諸島の問題についても。

付き合っている彼女のことも話してくれた。


そして、最後に、

「日本人は悪い奴らバッカリだと思っていたけど、お前はすごく良い奴だ。大好きだぞ!」

と言ってもらい、

「俺もお前が大好きだ!」

と、その小太りでメガネの中国人の男性と、がっちりとハグをした。


日中の和平問題の解決に向けたお役に、いくぶんか立てたかもしれないと思えた。


ふと、時計を見ると、夜中3時を回っていた。


でも、日中関係が良くなることに1ミリほどでも貢献できたと感じた俺は、すごく気持ちが良かった。

圧倒的な達成感。


あの子のことは、どうでも良くなっていた。


そして、翌朝も7時半発のバスに乗り込み、俺は展示会で寝不足でズタボロになりながら、説明員をこなした。


そんな俺の24歳の時の、スイスはジュネーブでの出会い。



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