マラソン、速くなりたい!
それには、マラソンの速い人と遅い人、どこに違いがあるのか、またどこが同じなのか、を分析することも一つ重要だろう。
世の中には、そんなことをしっかりと論文にまとめてくれる人がいるんだね。
ということで、本日紹介するのはこちらの論文だ。
"Similarities and differences among half-marathon runners according to their performance level"
訳すと、「ハーフマラソンのパフォーマンスレベルで比較する、類似点と差異」だ。
論文の概要
ハーフマラソンのタイムから、ランナーをレベル別に4つのグループに分け、その4つのグループ間での様々なデータを比較している論文だ。
2018年1月にアクセプトされた非常に最新のデータと見解がまとまっている。
4つのグループのハーフマラソンタイムは以下の通り。
Group1:<70分
Group2:<80分
Group3:<90分
Group4:<105分
Group4のタイムで、1時間30分以上1時間45分未満なので、決して遅くもないという話もある。。。
ちなみに俺は、1時間42分56秒なので、Group4に分類される。
測定された項目は、
・ランニング歴、週間走行距離などの練習に関する項目
・体重、皮下脂肪などの身体的特徴に関する項目
・最高速度、VO2max、ランニングエコノミーなどの生理学的な項目
・着地方法、ストライド、ピッチ、接地時間などのランニングダイナミクスの項目
で、非常に多岐にわたる。
速い人と遅い人で何が違うのか
ここでは、ハーフマラソンの速い人と遅い人で、特に違いが大きい項目を並べてみる。
r(相関係数)の絶対値が1.0に近いと、ハーフマラソンのタイムと相関が高い(タイムと関連が強い)。
一般的には、相関係数が0.75以上であれば、「相関が高い」と言える。
「±」の後の数値は、標準偏差。
この範囲内に、ほとんどの人がおさまっていると思っていただければ良い。
■練習に関する項目
・ランニング歴(r:-0.75)
Group1:16.5±5.6年
Group4:3.6±4.2年
当たり前に思えるが、速い人の方が、ランニング歴が長い。
・週間走行距離(r:-0.80)
Group1:118.6±30.3km
Group4:43.3±15.4km
この点も当然といえば当然で、速い人の方が、週間走行距離が長い。
Group4でも、月間走行距離にすると、「185.6±66.0km」なので、相当走っているが。
■身体的特徴に関する項目
・体重(r:0.45)
Group1:66.5±5.3kg
Group4:73.0±8.9kg
速い人の方が、体重が軽いのだが、相関係数は0.45とそこまで高くない。
身長が高い人もいれば、低い人もいるため、体重だけでは相関が高くないということだと思われる。
・BMI(r:0.64)
Group1:21.4±1.4
Group4:24.1±2.4
速い人の方が、BMIが小さい。
やせ型の方が、マラソンが速いという想定通りの結果。
BMIは、身長も考慮に入っているパラメータであるため、体重よりも相関係数が高くなっている。
・6か所の皮下脂肪の厚さ(r:0.78)
Group1:37.4±9.1mm
Group4:70.3±15.9mm
論文では、「三頭筋部分」「肩甲骨部分」「横腹部」「腹部」「大腿筋部分」「ふくらはぎ部分」の6か所の皮下脂肪の厚さを計測し、その6か所の皮下脂肪の厚さを合計した値を比較している。
皮下脂肪が少ない人の方が、マラソンが速いという、こちらも想定通りの結果だ。
今回の論文で測定した身体的特徴の中では、皮下脂肪の厚さが最も、マラソンタイムと相関が高いということだった。
皮下脂肪は、マラソンのタイム向上には、なるべくそぎ落とした方が良いということが、改めて分かった。
■生理学的な項目
・最高速度(r:-0.92)
Group1:22.1±0.8km/h
Group4:17.4±0.9km/h
最高速度が速い人の方が、ハーフマラソンのタイムも速いということだ。
しかも、相関係数が0.92と非常に高い。
持久走が速い人は、最高速度も速い(短距離も速い)ということ。
・キツいと感じる速度 RCT:respiratory compensation threshold(r:-0.92)
Group1:18.6±1.2km/h
Group4:13.8±1.1km/h
キツいと感じる速度が低いと、ハーフマラソンのタイムも遅い。
こちらも相関係数が0.92と非常に高い。
・VO2max(r:-0.76)
Group1:69.2±5.0
Group4:55.9±6.2
ハーフマラソンが速い方が、VO2maxが高いという、期待を裏切らない結果。
・ランニングエコノミー(r:0.39)
Group1:196.1±18.8[ml/kg/km]
Group4:219.5±18.4[ml/kg/km]
ハーフマラソンが速い方が、エコノミカルであるが、相関係数が低い。
この点について論文では、
1.ランニングパフォーマンスとランニングエコノミーは、それほど関連がないことは、従来研究と一致している。
2.ランニングエコノミーは、パフォーマンスを表す一つのパラメータでしかなく、他の要素で補償可能である。3.速いランナー群でも遅いランナー群でも、エコノミカルな走りをする人もいればノンエコノミカルな走りをする人もいる。
4.ランニングエコノミーは、トレーニング量と関連が強く、今回の実験参加者は、全員が良くトレーニングしていると言える。
5.Group1には、フォアフット/ミッドフット着地のランナーの割合が多かった。リアフット着地よりもフォアフット/ミッドフット着地の方がエコノミカルではないため。
と述べている。
※ランニングエコノミーについての記述については、疑問に思う部分があるため、後日しっかり調査したい。
※また、他の人とランニングエコノミーを比較することに意味は少ないかもしれないが、個人としてランニングエコノミーを高めることがランニングのパフォーマンスを向上させることを否定しているものではない。
なお、測定された項目の詳細は、以下の表のとおりだ。
※上記論文のTable 1より引用
■着地方法
着地方法については、ハーフマラソンのタイムが速い人にフォアフット/ミッドフット着地が多いという結果だった。
フォアフット/ミッドフット着地の割合は、以下の通りだ。
Group1:73%
Group2:31%
Group3:15%
Group4:9%
※上記論文のFig.1より引用
短距離走でスピードを出すためには、筋スティフネスを最大に活用できるフォアフット着地が有利だと言われている。
上記の「最高速度」が速い方が、ハーフマラソンのタイムが速いという結果と比較すると、納得できる結果だと言える。
■ストライドとピッチと接地時間
論文内では、2種類の測定を行っている。
1.決まった速度(時速11km/13km/15kmで走った場合の、ストライド・ピッチ・接地時間
2.最高速度で走った場合の、ストライド・ピッチ・接地時間
1の決まった速度で走った場合についての結果はこちらの表だ。
※上記論文のTable 3より引用
全体として、速く走るとストライドが長くなり、ピッチが上がる、という傾向が見て取れる。
しかし、ハーフマラソンタイムの速いGroup1と遅いGroup4とでは、ストライド長とピッチにほぼ差がないことが分かる。
接地時間については、Group1の方が短い傾向がいくらか見られるが、論文内では、Group1にフォアフット着地のランナーの割合が多いためだと分析している。
(フォアフット着地の方が、リアフット着地よりも接地時間が短くなるため)
一方、2の最高速度で走った場合についての結果はこちら。
※上記論文のTable 2より引用
全体として、ピッチはハーフマラソンのタイムと関係なく190前後であるが、タイムの速いGroup1はストライド長が長いこと、接地時間が短いことが分かる。
このことから、ハーフマラソンを速く走っている人は、ストライド長を伸ばして走ることが可能であり、最高速度を大きくすることができている、と考察できる。
まとめと考察
ハーフマラソンのタイムが速い人の傾向としては、
ランニング歴が長い*
週間走行距離が長い*
体重が軽い
BMIが小さい
皮下脂肪が少ない*
最高速度が速い*
キツいと感じる速度が速い*
VO2maxが高い*
ランニングエコノミーが高い
(「*」は相関係数が0.75以上の、特に関連が強い項目)
という結果だった。
また、タイムが速い人には、フォアフット/ミッドフット着地が多いということも分かった。
さらに、「一定の速度で走る場合は、タイムの速い人遅い人とは無関係に、ほぼ同じストライド長とピッチで走っていること」、
「タイムが速い人は、ストライド長を伸ばして走ることが可能であり、それが最高速度の速さにも起因していること」が分かった。
ゆっくり走ることでも、ある程度マラソンのタイムを縮めることは可能だろう。
しかし、更に速くマラソンを走るためには、最高速度を上げる、ストライド長を伸ばして走るということが必要になりそうだ。
速度を向上させるための、スピードトレーニングおよび体幹を中心とした筋トレが、マラソンを速く走るためには必要だと考えられる。
いつもありがとうございます!応援のポチをお願い致します!
にほんブログ村