俺の父は、負けず嫌いが激しい。
「喧嘩で絶対に負けて帰ってくるなよ。」
なんてことが、口癖だった。
「仕事も喧嘩だ。」
「絶対に負けちゃいかん。」
なんて豪語していた。
そして、その言葉に続いて、父の武勇伝を聞かされることになる。
俺が喧嘩してきて、泣いて帰って、母と話をしていると、父は、
「おまえ、負けたのか。喧嘩で。」
「どこのどいつだ!俺がぶん殴りに行ってやる!」
と、正に「子どもの喧嘩に親が出る」になってしまうかのような勢いで興奮し始める。
父のその興奮が強烈過ぎて、喧嘩のことをすっかり忘れてしまうくらいだった。
そんなとき、家族みんなを引かせてしまうほどの父の興奮度合いだった。
「こういうところは、父を反面教師として、自分はそうならないようにしよう」
と、思っていた。
でも、俺が子どもの頃、父は、確かに日々、戦っていて。
平日、顔を見ることはほぼなく、土曜日も仕事に行き。
日曜日は昼過ぎまで寝ているという日々を過ごしていた。
父にとっての自分のための時間は、日曜日の巨人戦を見ながら飲む瓶ビールくらいだったように思える。
そんな父は、70歳になり、昨年、通称、
「秋の叙勲」
と呼ばれる叙勲の中の、
「瑞宝小綬章」
を受章した。
人生の大半を仕事に捧げ、戦い続けてきた父は、俺の尊敬する人の一人だ。
~~~~~
数日前、奥さんが仕事から帰ってきて、リビングのカーペットの上で寝ていた。
何やら、意気消沈しているように見えたので、聞いてみる。
「どうした?仕事で何かあった?」
すると、仕事でミスをしてしまったらしく、それが思いのほか大ごとになって、大変だったと。
小さいミスが、なんだかすごいことになってしまって、非常に辛い感じになったと。
奥さんは、窓口で受付をしているのだけど、その受付業務の中で、
領収書の宛名を間違えて書いてしまった、
というミスをしたという。
その宛名の会社名と、間違えて書いてしまった会社名、
間違えてもしかたないよね、
っていう感じの類似度で。
しかも相手の方は、バタバタしていた様子で、領収書の確認をしてくれなかったらしい。
もし自分が奥さんの上司だったとしたら、
「まぁこんなこともあるよね。」
「これは、間違えちゃうこともあるよ。」
「気にしないで。あとは、やっておくから。」
「でも、次からは、ちゃんと相手に宛名を確認するようにしてね。」
って感じで、いくんじゃなかろうか、って思った。
が、奥さんの上司は、ピンと張りつめた空気感を作り出し、
「困りますね。」
「事の経緯の詳細を教えてください。」
と、始末書なるものを広げて、そこに書き込んでいったという。
領収書の宛名を間違えたという「事の経緯」って、なんなんすか?
その上司の人は、
「しかたないよね。」
などのフォローの言葉は全くなかったという。
宛名の確認を、ちゃんと相手にするようにという教えも特になかったという。
まじかよ。
おいおいおい。
それは違うだろうが。
ふざけた人だ。
って思ったら、ものすごく興奮してきてしまって。
「俺が行って、そいつに一言いってやるから。」
とか、
「まじでふざけた人だな。ミスした人の気持ちのフォローができない上司は、その立場の資格なんてない。」
とか、
語気を荒げて、興奮しまくっている俺がいた。
明日、そいつんところに行ってやるぞ!くらいな感じの気持ちになっていた。
うちの奥さんにこんなに辛い想いさせやがって、って。
俺は、しばらく興奮が冷めやらず、気付いたら、奥さんと、横で聞いていた桜子が、ちょっと引いていた。
このとき、思い出した。
父が、興奮し過ぎて、俺がちょっと引いていた、あの頃を。
少し興奮が冷めた。
そして、
「あぁ、俺は、父に似ているんだな。」
って思った。
翌日、奥さんが仕事から帰ってきて、そのミスも、なんとか解決したと教えてくれた。
奥さんは、笑顔だった。
さてと。
にほんブログ村